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心に移りゆくよしなしごとを、教育、音声言語、認知科学、環境倫理などの視点から、そこはかとなく書いています
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繰り返しは偉大である  1.すぐに消えてしまう記憶
新しくスマートフォンを買ったときに新しい電話番号が与えられても、それを10分後まで覚えている人はあまりいない。目や耳から入った数字や文字はいったんワーキングメモリという脳の記憶領域に入る。以前は短期記憶と呼ばれていたが、記憶以外にも仕事をしているようだということでワーキングメモリとよばれるようになりつつある。この短期的な記憶は、容量が非常に少なく、7数字あるいは7文字前後である。あるいは7単語前後である。記憶の量的単位はチャンクと呼ばれている。おおよそ7±2チャンクであることが多くの実験で示されている。アメリカの心理学者ミラーは、この7という数字をマジカルナンバーと呼んだ。このワーキングメモリの保持時間は数十秒といわれている。     (2021.5.4  続く)

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繰り返しは偉大である  2.長期記憶の存在
では、なぜ我々は、自分の電話番号や人の名前、さらには九九や寿限無、ポケモンの名前をいつまでも憶えていられるのだろう。これはこういった情報がワーキングメモリではなく、長期記憶という領域に入っているからである。つまり、ワーキングメモリと長期記憶とは別の領域で、機能も異なっていると考えられる。長期記憶は、文字通り長きにわたって情報を保存できるが保持時間は永続的と考えられている。しかも、容量は無制限とされる。確かに、自分の過去を思い出してみれば、幼稚園時以降、先生や友達、親兄弟、知り合い、政治家、歌手、スポーツ選手、芸人など実に数多い人たちの、顔や様々な表情、声、言動をいまだに覚えているし、常用漢字や多くの英単語など、学校で習ったこともかなり(ある程度?)覚えている。これらの量は実に膨大だ。長期記憶にさえ入れれば、いくらでも死ぬまでキープしておくことができるのである。ここで注意しなければいけないことは、長期記憶に入れられるということと長期記憶の内容を引き出すことは、別の話であるということだ。引き出すことができず、長期記憶に入ったままになっていることは実に多い。     (2021.5.11  続く)

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繰り返しは偉大である  3.口ずさみと空書が長期記憶に導く
ワーキングメモリの内容をどうやったら長期記憶に送ることができるのか。「心」「日」「立」の部品からなる漢字が何であるかすぐに言えるだろか。少し考えればわかるのだが、その際に、指や頭で空中に文字を書いて思い出そうとしていないだろうか。他にも「『けいさつしょ』の『しょ』は、『者』の上に何を書くか?」などという問題でも、我々はつい指を動かして空中やテーブルに文字を書く動作をしてしまう。これらの問題を学生にやらせるとき、ただ考えさせるグループと両手を後ろで組んで考えさせるグループとに分けると、前者の方が早く正解が出る傾向にある。この空中に文字を書く動作は、空書とも呼ばれるが、我々が漢字を覚えるときに、手書き行動を何度も繰り返したことを示していると考えられる。 一方、プレゼンや演劇のセリフを覚えるときには何度も口ずさんで覚えるのが一般的である。「寿限無」を覚えている人に「シューリンガン」の次は何かと聞くとすぐには答えられず少し前から口ずさみ始めることが多い。円周率をたくさん覚えている人に「8979」の次は何かと聞くとやはりすぐには答えられず少し前から口ずさみ始める。この口ずさみ行動も、以前に何度も口ずさんで覚えたことを意味していそうだ。     (2021.5.19  続く)

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繰り返しは偉大である  4.脳は積分により力を蓄える
こういったリハーサル、すなわち繰り返しによって、脳は短期的記憶内容を長期記憶に蓄えていく。これが知識になり、スキルになる。小学校で九九を毎日唱えた、漢字を毎日百字書いたなど、ほとんどの人が繰り返しで何かを覚えたという経験をもっているだろう。その内容は今でもおそらく覚えているに違いない。脳はリハーサルによって少しずつ情報を刷り込んでいく。言い換えれば、脳は積分によって力を蓄えていく。ところで、歩行者用信号の青は上か下かどちらだろうか。この質問に答えられない人は多い。歩行者用信号は、数多く、人によっては毎日見ているはずである。なのに、上が青だったか赤だったかを覚えていない。つまり、情報は単に繰り返し取り込むだけではだめで、覚えようと意識してリハーサルを行わないと長期記憶に入らないのである。     (2021.5.25  続く)

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繰り返しは偉大である  5.長期記憶への定着
この長期記憶への定着には、海馬と呼ばれる脳の部位が大きく寄与していることがわかってきている。海馬を損傷した患者が、 昔のことは思い出せるが直近のことが覚えられなくなったことに端を発し、その後の数々の症例や動物実験から海馬の記憶定着機能が明らかになってきたのである。海馬は脳の内側の大脳辺縁系という辺りにあり、外からは見えない。目や耳から入った情報は、最終的にこの海馬に集められ、時間・空間に関して整理されて長期記憶に送るための取捨選択がなされるらしい。これは、アメリカの生理心理学者がラットの海馬を破壊すると、ある事象がいつ起こったのかということを時間的文脈で記憶することができなくなることを確かめたり、日本の脳科学者がやはり海馬を破壊したラットを使った迷路実験で、海馬が空間情報の記憶を司ることを確かめたりしたことから、次第に明らかになってきた。     (2021.6.2  続く)

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