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心に移りゆくよしなしごとを、教育、音声言語、認知科学、環境倫理などの視点から、そこはかとなく書いています
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海外カルチャーショック 10.ロシアというところ
多国語通訳システムを開発することになり、ロシア語の音声認識技術を持っているところと共同研究する必要があった。その頃、本社ではロシアとの共同研究を促進する部署があった。それは、米ソ冷戦が終わり、今まで軍事研究をしていた多くのロシアの研究者が次の展開を探し、日本の企業に声をかけていたのだ。当時のロシアは何となく怖いイメージがあり、あまり行きたくはなかったのだが、本社の人も2人ついてきてくれるので心配ないという。
モスクワ空港に到着。アナウンスが全く分からない。職員も客も皆背が高くて何となくの怖さがある。到着した日の午後に、本社の人たちと街を歩いていると、警官らしき人が近づいてきて本社の一人にちょっと来るように合図をして、何か尋問のようなことをした。20分ほどかかっただろうか。彼が戻ってきて、何を聞かれたのかを訪ねると、ロシア語でよくわからなかったらしいが、ロシアではそういうことがよくあるとのこと。何を尋問したのか、なぜ彼だけが選ばれたのかはいまだに謎である。
2日目の行程はモスクワ大学に行ってロシア語音声分析の共同研究の交渉を行うことだった。事前に、先方より一緒に昼食でもいかがですかとの連絡があったので、ボルシチが出るのか、ビーフストロガノフか、あるいはピロシキだろうかと楽しみにして行った。ある教授室で交渉が始まった。次々と下襟の先がピシッと尖ったダブルのスーツを着た教授陣が現れ、名刺交換をし物々しい雰囲気ながらも、条件の提示が始まった。結局、成果物と費用面で結論は出ず、翌日に持ち越しになった。その後、昼食に。大学のレストランにでも行くのかと思ったら、その部屋で食べるという。料理が運ばれてくるのかと思っていると、部屋の片隅に置いてあるパンとペットボトルの水が運ばれきた。パサパサした小さなパンが1人1個を渡され、「スパシーボ(ありがとう)」と答えるのが精いっぱいだった。ところがなんとそのパンにカビが生えていたのだ。それを言うべきかどうか悩んで、結局それを見せたら、指でつまんで取ってくれるのであった。表には見えないロシアの内情を見た気がした。その後、先方の先生がマルコフモデルによる音声認識について学生に講義してくれないかと言う。先方は音声認識を熟知していると思っていたし、そもそもマルコフはロシアの学者に由来するのに、なんか奇妙だなと感じながらも、仲間の日本人がぜひぜひと言うので、つたない英語で、モスクワ大学の1つの教室で講義する羽目になった。なんという想定外。すると、どやどやっと20人くらいの学生が一気に入ってくるのであった。その学生たちの目がランランと輝いていたのが印象的で、これもロシアの一面を見た気がした。 (2022.2.5 「海外カルチャーショック」終わり)

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